男の意地
「スミマセーン、今日はチリビーンしか残っていないのです。」
車の助手席から
「チリビーン食べたーィ!!」
と言ってカップルのお客様がみえた。
「からさ、大丈夫ですか?」
「大丈夫、関東にいたから。」
「関東はどちらに?」
「東京とか」
「それじゃ、からいの大丈夫ですね」
「そー、福岡の甘いしょうゆは許せない!!」
(うれしいジャン。オヤージも許せないのだ。)
チリビーンからそれてしょう油に話は進んで行く。
「どちらの出身ですか?関東?」
「もちろん、福岡よ。だけどしょう油はゆるせない!!」
オヤージよろこび、昼食用にトーストしていたバンをご馳走。
「ところでご主人は何をされているのですか?」
「整体師。」
「整体って指圧なんかも入るの? アっ、思い出した。」
現役の時、取引関係があるアメリカ人の会社社長5-6人連れて日本を旅行した。
夕刻東京に着き、夕食の時間まで3時間ほどある。
時差解消のためマッサージに皆を連れて行く。
マッサージの前に風呂に入る。
この人たちの普段の風呂の湯はぬるま湯。
だから江戸っ子が我慢して入るような湯は生きたイセエビがゆでられるように感じる。
湯から出たときには皆すでに白人の肌は真っ赤。
湯船をでるとユニフォームを着たおばさんたちが待ちうけていた。
赤い肌したチョイワル外国人は男湯に女性がいることに大パニック。
ほとんどのおばさんたちは女性を終わっているにちがいないが、彼らには考えられない事なのだ。
おばさんたち赤肌たちに小さないすに腰掛けるよう指示する。
座ると背中を
あら塩とたわしのようなブラシでこすり始めた。
もう肌は赤さを通り過ぎ血がにじんでいるチョイワル白人もいる。
もちろんオヤージの
腹の真ん中は黒い肌。
ニヤニヤして次のコースへ皆を案内する。
次に何が始まるのか戦々恐々として、普段はうるさい連中が無言で付いて来る。
マッサージ室に入るとベッドが20くらいあり、半分くらい空いている。
マッサージ師には小柄なおばちゃんが多い。
連れてきた白人(もうこの時点で赤人、血人になっているが)がいっそう大男にみえる。
「あのねー、この人たち時差が取れるよう心と
力をこめてお願いね。」
とオヤージは丁寧におばちゃんたちにリクエスト。
危機を感じたある赤人が「今何をおばちゃんたちに話したのだ?」と聞く。
「時差が取れるようにとお願いしたのだ。」
おばちゃんたちが男たちにうつぶせになってマッサージテーブルに乗れと指示。
指圧が始まるとあちこちのテーブルで
「
ウツ!」
「
ウツ!」
「
ウツ!」
っとうめきがもれてくる。
オヤージ首をもたげて見渡すと、うめきが洩れているテーブルの赤人は足がつっぱている。
オヤージも必死で笑いをこらえる。 苦しい・・・・のだ。
10分ご仰向けになっている皆を見ると
頭のてっぺんからつま先まで朱色になっている。
中には銀色の頭髪の赤人がいる。
銀色と赤とのコントラストはきれいだ。
1時間のコースが終わり更衣室に行くと
赤人が
「どうしてあんなに小さいおばちゃんに力があるのだ。
もう痛くて痛くてたまらなかった。
だけど痛いと言ったらアメリカの恥になる。
アメリカ人の意地をみせてやった。」
オヤージ笑い転げ、黒い腹も赤くなる。
こうして血のにじむ苦しい意地を共有し男の友情は硬く結ばれた。
ちなみに銀髪、赤膚の一人はランデイだ。